釜山の海辺で地元のアジュンマと秋を先どり!
 吉村剛史(トム・ハングル)
 2013/08/23 改:2013/08/23 

韓国地方旅行の醍醐味は、人とふれあえること。地方の旅をはじめてまもなく4年になりますが、このブログでも繰り返し述べてきました。もちろんこれは私だけでなく、韓国を旅する方たちが感じていることです。

そんな韓国地方の旅にはまった私は会社を退職し、2011年冬に韓国へ。1年8か月にわたる留学&ワーキングホリデーから帰国しましたが これからは更新頻度をあげて、今回の長旅の報告をしていきます。

先週末、滞在中の最後には釜山に行ってきました。ジャガルチ市場に足を運びましたが、海に行ったら一度やってみたかったこと、それは、刺身店に入らずに、市場で魚を買って海辺で刺身を食べるということでした。

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海に面した釜山屈指の水産市場、ジャガルチ市場。釜山を訪れる観光客なら、必ずといってもいいほど訪れるのがこの市場でしょう。

「タチウオ美味しいよ~、買って行って」
「刺身15,000ウォンだよ~」

建物のなかに入ると、水槽のなかで魚が泳ぐチャプチャプとした音とともに、魚を売る人たちの威勢のよい声と、市場を訪れるお客さんとのやりとりが聞こえてきます。この市場に入れば、この活気につられて刺身を食べてみたくなるはずです。

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「10,000ウォンで食べられるもの、ありますか?」
「市場の外で食べたいんですが、できますか?」

あまり予算がないときでも、そんなふうに声をかけてみれば、何かと答えてくれるのが市場のよいところ。融通を聞かせてくれます。

お店にいたのは40代くらいの背の高いの魚屋さん。日本だったら寿司屋でねじり鉢巻きでもしているかのような、がっしりとした風格が感じられる方です。

「それだったら、チョノ(コノシロ)だね。」
「どうします?セコシ(세꼬시、背越し)でいいかな?」

といって水槽から7~8匹くらいの魚を取り出し、さばき始めます。漢字で書くと「銭魚」となるチョノ(전어/コノシロ)は、韓国では秋を代表する魚。コハダの成魚で、サンマのように大衆魚なのでとても安く食べられる魚です。

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セコシというのは日本語由来の言葉、「背越し」です。骨が柔らかい魚をぶつ切りにして、骨付きのまま食べるもの。食べるときにちょっとコリコリするのが特徴です。

「本当は9月の中旬ぐらいが脂がのって本当においしいんですよ」
「今(8月中旬)はそこまでではないけどね」

包丁をもつ反対側の手には白い手袋をして魚の頭をとり、手慣れた手つきで銀びかりを放つ魚、コノシロをさばいてくれます。サバやイワシなどの青魚はほどよい脂の乗り具合と、さっぱり感が好きです。

魚をさばいているあいだも、市場のなかではお客さんたちが、どの店で何を買おうかと、同行する人とあれこれ話しながら歩いて行きます。数十件、百件ともいえるお店があるので、どこで買おうかと迷うものです。

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刺身がさばきあがるとパックに詰めてくれ、サービスだよ、といってチョコチュジャン(唐辛子酢味噌)を付けてくれました。

「プサンでよい旅を~」

そんなふうに声をかけてくれ、お礼を行ってお店を後にしました。外は夏の日差しがカンカンに照り、まるで海を刺すかのような強い光です。そんな様子を窓越しに眺めながらも、ウキウキした気持ちで海に面した市場のテラスに出てみます。

その前に買っておいたのは缶マッコリ「月梅」。韓国では刺身といっしょに飲むのはふつう焼酎なので、邪道なのかもしれませんが、さすがにひとりで一本飲みきるのは大変なので、手軽に飲めるものを選びました。

このあと、このマッコリがきっかけで一つの出会いが起きたのでした。(続)

「韓国には男、女、アジュンマ」という3つの性別がある、といわれるほど韓国の中年以上の女性、アジュンマの姿には独特なものを感じます。

やたらとおせっかいで世話好きなのか、初対面だろうとお構いなしに入り込み、日本人の感覚では驚くほどストレートに言葉を放ち、そしてみんながチリチリのパーマ。地方旅行をしていても、このアジュンマという第3の性別の存在感はとても大きいものです。

ジャガルチ市場のテラスに出て、まずはマッコリと刺身の写真を撮ろうと石でできた台のうえにのせます。日差しが照りつけるなか、海をバックにうまく撮れないかとかなり試行錯誤。

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そんなとき、横から見られているような視線を感じます。なんだなんだ、と思いつつそちらのほうを見ていると、私のほうに使い捨てのカメラを向ける、なかなか派手なスカーフをまとったアジュンマの姿。

刺身の写真を真剣に撮っている私が、よほど面白く見えたのでしょうか。なんで撮るのかと聞いてみたら、缶に印刷されている文字が漢字で気になったから、と。「月梅」は韓国で買ったマッコリなのですが、それが日本の珍しいビールに見えたそうな。

なかなか派手なスカーフをまとった50代後半くらいのアジュンマが、こちらにやってきました。

「そんな日差しの強いところにいたら刺身が痛んじゃうよ」
「いいから、こっちに来て来て」

日陰のほうに行くと、もうリタイアしたおじいさんたちなのでしょうか、テラスの屋根があるところで話をしたり、焼酎を飲み顔を赤くして寝そべっていたり。若い人は私ひとり、しかも外国人。2,30人のおじいさんからギョロッという視線を一気に浴びます。

親切にもそこにあった段ボールを敷いてくれて、
いいからそこに座りなさいと…

「どこから来たの?」
「ひとりで旅行して食べるなんて退屈でしょう」「私も食べるわ」

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といいながら、アジュンマもカバンからお箸とサムジャンと持ち出してきました。美味しいからこれにつけて食べてみなさい、と。そんなふうに秋の味覚コノシロを一足早く一緒に食べたわけです。

すると、焼酎を飲めや、手作りコーヒーも飲めや、正直なところ時間もないのにちょっと面倒なことになってきたぞ、でも入れてくれたから飲まなくちゃな、とクィっと焼酎を飲んでみせて…。

話をしていると、そのアジュンマたちは、今は体も話すことも不自由になってしまったおじいさんの散歩で海までやってきたそうです。お年は83歳だそう。

「おじいさん、日本の若い方が来たよ」
「日本語わかるでしょ」

おじいさんは表情もそのままで、手を上下に動かしているのはわかります。何か反応をしているのでしょうけれど、結局言葉を発することはなく。

最後はアジュンマたちと一緒にポーズをとって写真を撮り。「また来るときは連絡してね。」そう言われ、電話番号を交換。

名残惜しさもなく、少しだけ空いていた心のすき間がすべて埋め尽くされたような気持ちでその場を立ち去りました。こんな関わりは面倒なようで、普段の生活で足りないものを補充してくれるかのようです。

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こんなところがやっぱり「韓国」。初めて会ったのに距離感を全くといっても感じさせない独特の人情の厚さ、炎天下の夏の日差しのような時には火傷しそうな熱さ。

こんな熱さに「火傷」して韓国中毒になり、会社をやめ日本を飛び出してしまった私。帰国する直前にもまた旅先で人とかかわる楽しさに出会ってしまいました。またしばらくこの感じから抜け出せそうもなさそうです。




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